カルネ・ド・フランス

日仏の美食

日本も冬らしい気候になったと思いますが、私の住んでいるブルゴーニュはたいへん寒く、夜中の気温が零下8度まで下がってしまう状態になりました。皆が5か月もかかる長い冬への心構えをしているところです。夕方5時には暗くなってしまうほど日が短くなり、なんだか「暗い...」感じがする時期になってしまいました。こういった時には特に、「おいしく食べる」というのはますます大事になるのではないでしょうか。もちろん、自分で作るのもよいのですが、優秀なシェフが作ってくれるグルメ料理を楽しめるのは最高の喜びではないか、と思います。

ありがたいことに、私の家の近くにあるMontceau(モンソー)市には、『Le France(ル・フランス)』という名門フランス料理レストランがあります。ミシュランの1ツ星を獲得しているブルゴーニュ地方出身の若いシェフJerome Brochot(ジェローム・ブロッショー)さんが経営しています。

ここは私が大好きなレストランで、贅沢な気分を味わいたいとき、必ず『Le France』へ出かける習慣があります。おかげで、ジェロームさんと、彼と一緒に仕事をしている奥さんのマリアさんと親しくなり、彼ら4人家族が家に遊びに来てくれたこともありました。

ミシュラン1ツ星のシェフとオーナー、ジェローム・ブロッショーを囲む西野さん(左)と谷口さん(右)。日本の「お弟子さん」たちは、大好きなワインがたくさん入っているブルゴーニュ風料理を学んでおり、マスターの紳士的な性格に感動しているそうです。

フランス人のスタッフと今晩の料理を準備している谷口さんと西野さん。片言まじりのフランス語でも、コミュニケーションは十分とれています。

たまたま『Le France』で、現在二人の日本人が見習いコックとして修業を受けていることを聞きました。「面白い」と思って、先週お話を聞きに伺ってみました。

このお二人は、東京出身の西野さんと、愛知県出身の谷口さん。西野さんは、ミシェランのレストランガイドブックでジェロームさんの情報を見つけ、メールで連絡を取り、「すぐお返事をくれた」ということがきっかけになり、数か月間研修することが決まりました。谷口さんは大阪に本校を持つ辻グループのフランス校(『Chateau d Eclair』の辻学校)で勉強し、コースの一部として『Le France』で実習を受けることになりました。お二人とも、ワインが大好きで、「ワインと地方料理の豊かなブルゴーニュのレストランで勉強したかった」と言い、『Le France』は理想的な場所として思われたそうです。

小さな地方都市であるMontceauの生活には不自由する場合もあるようすが、研修はとても順調に行っています。まず、マスターのジェロームさんは「とても紳士的で、何でも丁寧に説明してくる」、と言っています。「とても社交的な人ですから、お客様が台所まで入ってくることもあり、驚いた」と西野さんが語っています。いうまでもなく、若い1ツ星のシェフ、ジェロームさんによる料理も大変勉強になる。ジェロームさんはブルゴーニュ地方のインスピレーションを受けていますが(例えばワインやビーフ、チーズをたくさん使っています)、とてもクリエイティブな形でアレンジし、「伝統的なフランス料理に比べると、あっさりしている」、と二人とも言及しています。

西野さんは、南フランスのコート・ダジュールのレストランにも実習した経験があります。フランスには、地方によって料理が全然違うことに感心していました。「素材、作り方の違いが、同じ国の中でこれほど大きいとは知りませんでした」、と。

西野さんは、何よりも料理を通じて、『フランスの文化と生活を体験したかったと』と言っています。

西野さんと谷口さんは、将来、自分のレストランを持ちたいという夢を抱いています。これはフランス料理、イタリア料理、スペイン料理(あるいはそのコンビネーション)になるかどうかは、まだはっきりしていませんが、「とにかくヨーロッパ料理」ということだけは決まっているようです。「フランスの文化を身につけて、色々と吸収して日本へ持って帰りたい」と二人は言います。

西野さんが今夜のロブスター料理を準備しているところです。

ジェロームさんにも、日本人の見習いコックについて、印象を聞きました。まず、彼らは「大変真剣に、本当にまじめに勉強している」、ということでした。「料理の仕事が終わったら、自分の仕事の場と自分の使った道具をきれいに掃除する。また、毎晩包丁を磨く......ということには一番感心した。フランス人は、ここまでは絶対にやらないから」。そしてジェロームさんは、「今後も、日本人の生徒をたくさん迎えたい」と、心からの気持ちを伝えてくれました。

私が話に伺った夜は、予約がたくさん入っていて、大変忙しかったのですが、日本人もフランス人も落ち着いた雰囲気の中で、勤勉に一緒に仕事をしている印象を受けました。言葉はあまり通じなくても、料理を通じて上手くコミュニケーションを取り、仲良くコラボレーションしていることは大変素晴らしいことだと思いました。

熱意を持って、一生懸命においしい料理を作り、お客様に提供する試みにより、心が一つになり、言葉と文化の壁を乗り越えることができると思います。グルメ料理による日仏文化交流だな、と思いました。

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