カルネ・ド・フランス

フランス大統領選 その3 第一回戦

※記事は、フランス大統領選挙、最終戦の前に書かれました。この記事の最後に、マクロン氏フランス大統領選出後の「速報レポート」もございます。併せてお読みください。

前回は、フランス大統領選挙の11人の候補者を紹介いたしました。そして4月23日の日曜日には、第一回戦の投票が行われました。フランス歴史上で最も予測がつかないといわれていたこの選挙戦は、優勝候補だった4人の候補者が最後までわずかの差で競い合いました。

最終的に二回戦(5月7日)に進んで次期大統領になる可能性があるのは、若さと推進的思考が売りのエマニュエル・マクロン氏とフランスのナショナリズムを主張しているマリーヌ・ルペン氏です。フランスでは毎日のように、この二人の行動や政治プログラムなどが報道されていますが、まだどちらに投票するかわからないという声も少なくはありません。

マクロン氏は866万票(投票率24%)を獲得して一回戦のトップに立ちましたが、ルペン氏も768万票(21.3%)と、ほぼ近い結果で通りました。しかし、フランス国民はいまだにどの候補者を大統領に選ぶのか、まだ決定していないようです。マクロン氏は左派的な考えを示しているものの、大統領になるときのプログラムがはっきりとしていなく、不満の声もかなり上がっています。またマクロン氏は、政治活動より私生活のほうが注目されています。

日本でも報道されていましたが、マクロン氏(38歳)の奥様は24歳年上の彼の高校時代の元教師で、二人はユニークなカップルとして知られています。また、マクロン氏は政府に入る前に、銀行の仕事をしていたということですから、ある人から、「彼はお金に左右されている」という批判も受けています。

逆にルペン氏は移民反対、脱EUやフランスの軍事強化などを主張しており、トランプ氏の「女性版」ともいわれ、批判の声が上がっています。現フランス大統領のオランド氏も、国民がルペン氏の党の勝利を阻止するような演説をして、多くの町でも反対デモが起こりました(今でも起っています)。しかし選挙直前と直後では、テロリストとみなされるグループがマルセイユで逮捕されたり、警官がシャンゼリゼでテロリストに射殺されるなど、事件が相次いで、人々は新たなる不安を感じています。その恐怖を利用してルペン氏は選挙を勝ち取るつもりです。

この一回戦で一番の敗者は、今まで政権を主導していた共和党と社会党の両代表者である、フランソワ・フィヨン氏(721万票、20%)と、ブノワ・ハモン氏(229万票、6.4%)です。特にフィヨン氏は、選挙前に公共財産の横領と詐欺疑惑が発覚していました。彼は大統領選挙を勝ち抜いて特権を獲得するつもりでしたが、今回の敗退でその権利は取れず、これからは裁判に立ち向かうことになると予想されています。ハモン氏は社会党の代表者としての責任を背負えず、現政権の敗退をうまく表しています。

最後に、選挙前の週では、ほかの候補者を攻撃的な演説で圧倒して人気上昇、ダークホースとして見られていたジャンリュック・メランション氏は、706万票(19.6%)で4位に終わりました。ですが、彼の社会ビジョンは多くのフランス人に気に入られ、今度行われる最終選挙戦では、彼の支持者がマクロン氏とルペン氏のどちらかに投票するかで決まるともいわれています。しかしメランション氏は二人の最終大統領候補者に対して不満を表し、どちらかの肩を持つ意思はないようです。

現在の世論調査では、マクロン氏が明らかな差で次期大統領になるとは言われていますが、ビッグサプライズが起きてルペン氏が最終的に勝つというシナリオも十分あり得ます。本当に最後まで結果が予測不可能な大統領選挙ですが、フランス国民は5月7日に投票場へ向かって新たなる大統領を選ぶという責任を抱えているのです。

選挙一回戦最終結果

1位)エマニュエル・マクロン(38歳)、中道党「アン・マルシュ!党」(進め!党)、24%(866万票)
2位)マリーヌ・ルペン(48歳)、極右党「フロン・ナショナル党」、21.3%(768万票)
3位)フランソワ・フィヨン(63歳)、右派「共和党」、20%(721万票)
4位)ジャンリュック・メランション(65歳)、極左派「左派の党」、19.6%(706万票)
5位)ブノワ・ハモン(49歳)、左派「社会党」、6.4%(229万票)
6位)ニコラ・デュポンエニャン(55歳)、右派「フランスよ立ち上がれ!党」、4.7%(170万票)
7位)ジャン・ラサール(61歳)、独立諸派「国民行進党」、1.2%(44万票)
8位)フィリップ・プートゥー(49歳)、極左派の「新反資本主義党」、1.1%(39万票)
9位)フランソワ・アスリノー(58歳)、独立諸派「市民共和国連合党」、0.9%(33万票)
10位)ナタリー・アルトー(46歳)、極左派「労働者の戦い党」、0.6%(23万票)
11位)ジャック・シュミナード(75歳)、独立諸派「団結と前進党」0.2%(6万票)

マリーヌ・ルペン氏エマニュエル・マクロン氏



フランス大統領選 その4 最終戦

フランスの次期大統領はエマニュエル・マクロン。

先週末フランスの大統領選挙の最終戦が行われ、見事にエマニュエル・マクロン氏が大統領として選ばれました。最終候補者のエマニュエル・マクロン氏とマリーヌ・ルペン氏は208万票(投票率66.1%)対106万票(投票率33.9%)という結果で、マクロン氏が39歳でフランス史上最も若い大統領になりました。

彼は年の離れている元教師の奥様、ブリジット夫人(62歳)と結婚していることで世界中で注目されていますが、フランスではそれよりもこの新大統領の異様なキャラと進んできた道が話題になっています。マクロン氏は質素な家系の出身で、元小学校の先生である祖母に幼いころから文学と知識に対する興味を学び、学校では優等生としてエリートコースを歩んできました。政治家としては右派と左派に関係なく、両派を組み合わせた中間的な政府を設立することを目的としています。

一回戦と二回戦の間では両候補者ともフランスの所々で最後の選挙キャンペーンを行い、時には批判やブーイングを浴びたり、時には思いがけない支援を受けました。その中でもエマニュエル・マクロン氏は元銀行員で資本主義的な考えが強すぎるなど、支持者を集めるのが困難でしたが、逆にルペン氏の差別的や脱EUの思考は、国民の多くを不安にさせました。

個人的には、トランプ大統領の「女性版」であるルペン氏が大統領になれば、フランスのみではなく、ヨーロッパ全体、または国際関係もとても心配になる、と思っていました。

マクロン氏の勝利に決定的だった瞬間は、投票3日前に行われたテレビでの両候補者の間での議論でした。ルペン氏は相手に対して一方的で攻撃的な戦略を選んだのに対して、マクロン氏はできるだけその攻撃を受け止めながらも、自分の政治プログラムを何とか示そうとしました。これでルペン氏はどちらに投票をするか、決心のついていなかった多くの有権者に、ネガティブな印象を与えました。

しかし、今回の最終投票で目立ったのは、国民の棄権率が40%に近かったということです。これは明らかに多くの国民が両候補者の支持を拒否して、どちらの政治プログラムにも納得していないことが見られます。マクロン氏の勝利は彼の考えに同意する人の支持だけではなく、ルペン氏の極右党を阻止するための投票でもあり、多くの人が悔いを感じながらもマクロン氏に投票したのは事実です。

ルーブル美術館のガラス製ピラミッドの前で奥様と勝利を祝う新大統領エマニュエル・マクロン氏

しかしそれがフランス国民にとって、今後のために一番良い選択だったとも私は思っています。その次の日はこの選挙戦の結果に対する小さなデモが所々で行われましたが、結果がどれであろうと、常に不満足を示すのがフランス人の面白い特徴なのでもあります(わりとおとなしいスイス人に比べると、対照的です)。これからは多くの難問と批判に対面するかもしれませんが、マクロン氏からはフランスに新たなる推進力を与えたい、という決断が感じられます。

このスリリングでフランスの中で最も予想外の選挙が終わった今、新たなる大統領のマクロン氏がどうフランスをリードしていくのかが注目され、私にとっても大変楽しみです。


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